Team:Kyoto/Project
From 2013.igem.org
Line 1: | Line 1: | ||
- | |||
{{Kyoto/header}} | {{Kyoto/header}} | ||
{{Kyoto/js}} | {{Kyoto/js}} |
Revision as of 14:21, 25 September 2013
count down
人の手で様々な遺伝子を組み合わせて生体の複雑な遺伝子回路を構築し、理解するというコンセプトの下で、iGEMはこれまで発展し続け、様々な遺伝子パーツが生み出され、様々な遺伝子回路が組めるようになった。事実、Parts Registryにそのコーディングシーケンスとなるパーツがある多様なタンパク質――色々な刺激に応答して転写を制御するものや、種々の物質を生合成する酵素、生産物を外部に分泌する輸送タンパク質など――と、そのタンパク質と特異的に相互作用する塩基配列を組み合わせて、大腸菌をはじめとするChassisに導入することで多様性に富んだ組み換え生物が作られてきた。 しかし、遺伝子回路を設計するにあたって、タンパク質を用いて実現することが難しいような状況が現れることがある。タンパク質を設計するのは現在まだとても困難であり、特定の分子と特異的に相互作用させようとしたり、狙った部分の転写を調節しようとしたりすることにはまだ多くの技術的な壁がある。また、タンパク質は転写、翻訳、フォールディング、そして修飾という複数のステップを経て合成され、また分解にもある程度の時間がかかる。そのため、発現するタンパク質の種類を変えるときには、転写調節から発現されているタンパク質の量が完全に入れ替わるまでのタイムラグをある一定の時間(その長さはタンパク質の種類に依存するだろう)より短くすることは難しいと考えられる。 そこで今回我々は遺伝子回路の構成要素のタンパク質に代わるもう一つの候補として、転写制御因子や、蛍光によるレポーターとなるRNAを用いることを提案する。RNAを用いることのメリットは以下の二つである。 RNAは二次構造の予測や、RNA同士やDNAに対する特異的な結合を可能にするような設計を行うこともタンパク質に比較すると容易である。よって、遺伝子回路を製作するにあたって、回路を構成するRNA同士が塩基配列特異的な相互作用をするように設計すれば、数に限りがある既存のアクチベーターやリプレッサータンパク質を用いては不可能だったような、一細胞内で複数の独立した回路を共存させるということが可能になる。加えて、回路に直接関係しない任意の遺伝子の発現量をそれ同調させることも可能となる。 さらにRNAは転写後、翻訳の時間を経ずにフォールディングが始まるため、応答までの時間が短縮される。また、生体内での分解もタンパク質と比較して早いので、転写調節から応答までの時間を比較的速くすることも可能になると考えられる。そのため、遺伝子回路を構成する分子を決定するとき、タンパク質とRNAを適宜使い分けることで、全体としてのかかる時間幅を設計することもできるようになるかもしれない。 今年、我々はRNAを転写制御因子やレポーターとして利用して遺伝子回路を構築できることを示すため、目標としてオシレーターの製作を掲げた。オシレーターは生物にとって重要な回路であり、また転写の抑制、促進の双方を満たすRNAが含まれるため、それらを以降の応用への例として挙げる。これからの合成生物学の発展のため、より多様性に富んだより複雑な遺伝子回路を設計するために、この技術がより広く用いやすくなることを望む。
我々が今回シャーレ上で実現しようとしたチューリングパターンの根幹を成すのは、下図のような機構である。すなわち、一方の因子が自己と相手の増加を促進し、他方の因子が相手の増加を抑制するというものである。
これは、本来数学者であったチューリングが提唱した機構であり、生物という枠組みのみにおいて考えられたものではない。すなわち、実際生物の体表で起きている事とは乖離している可能性のある、あくまでも「理論」なのである。言い換えると、数学的なモデルや単純な分子においては実現されうるものであっても、細胞という高次元のオーダーで実際に働いているのかどうかは未だ完全には確認されていない。
というのも、細胞という単位においては「因子の濃度に応じて模様を呈する場」と「増減によって場に影響する因子」の境界があいまいになるからである。これまでiGEMの別チームが行ってきた先行研究でも、この問題が要因の1つとなって実現に至らなかったものが多い。どういう事かというと、シャーレ上で再現しようとすると「培地」「細胞」「拡散物質」という三要素を考慮する事になるために、本来色を呈して「場」になるはずの細胞を、増減するというその性質ゆえ「因子」として扱ってしまうという事だ。具体的に言うと「別々の拡散物質を生成する2種類の細胞を用い、拡散物質の増減が細胞の増減に影響する」ような回路を組む事である。
細胞を「因子」として扱う事の何が問題になるのかを考えてみよう。細胞を「因子」として捉えてしまうと、下図のように、回路が二重になってしまうのである。拡散物質の増減が細胞の増減に影響するということは、細胞の増減によって、さらに拡散物質の増減に影響を与える事を考慮しなければならず、計2階層,4種類の因子が相互に関係しあうことになり、これはチューリングの機構からはかけ離れたものとなってしまう。
ここで、チューリングパターンにおいて考慮しなければならないものについて、ひとつ説明しておかなければならない。チューリングパターンの機構は、場の一定範囲における「拡散による因子の流出入」と「相互作用による因子の増減」についての2式を用いてシミュレーションを行う事ができる。すなわち、その2つの条件のみによって模様の形成が決定できるのだ。いかにも数学者といった簡潔さである。
ここで、先ほど考えた「細胞を因子として扱う場合」について考えてみよう。細胞を因子として扱ってしまった場合「拡散による拡散物質の増減」「拡散物質の影響による細胞の増減」「細胞の自然増減」の3つについて考えなければならない。ただし「細胞の自然増減」に関しては、その増減速度が2種類の細胞について同値と近似してよいとすると、場が拡張されるだけであるため、実質考慮しなくてもよいだろう。すなわち「相互作用による拡散物質の増減」が「拡散物質の影響による細胞の増減」になることによって、チューリングの機構とは違った様相を見せる事になるのである。
少し詳しい説明を加えると、「拡散物質の影響によって細胞が増減する」という事は、2種類の細胞の増減速度が同値として扱えなくなり、その結果として、細胞がそれぞれ生産している「拡散物質の増減速度にまで影響を与える」という事である。すなわち、拡散物質の増減が、2段階の工程を経てさらに拡散物質の生産速度に影響を与えてしまうのだ。本来であれば、互いの増減に直接影響を与えるはずの拡散物質が、間に細胞を介する事によって、その反応系がチューリングの簡潔な機構とはまったく異なった複雑なものになり、立式が非常に困難になってしまうのだ。
さて、それではどのような回路を組むのが理想的なのだろうか。ここで私たちが提唱するのは、以下のように、拡散物質と細胞との階層を完全に分かち、場と因子とをはっきりと区別するような回路である。
この回路において用いる細胞は1種類である。この細胞は、チューリングパターンが示す2因子となる拡散物質を生成、分泌する。こうする事によって、細胞が「場」、拡散物質が「因子」という明確な役割付けが出来、本来のチューリングパターンに非常に近いモデルとなると予測している。
このモデルを実現するためには、拡散物質同士が相互作用して互いの増減を制御するような仕組みが必要である。すなわち以下のように、それぞれの因子と結合して転写を制御するプロモーターによって、因子の転写を制御しなければならないが、その為には下図の赤いプロモーターのように、ふたつの因子とアロステリックに結合するようなプロモーターが必要である。また、以上では述べていなかったが、チューリングパターンの重要な形成条件の1つに、因子の適切な拡散速度比というものがあるため、アロステリックなプロモーターと拡散速度比を満たすような因子を見つけるのは困難である。